ジャンルの反復横跳び

宝塚歌劇その他、心惹かれたものについて

「生きる力」をありがとう―みっつのロミジュリ

ヴェローナで過ごした3ヶ月半が、ついに終わりをむかえた。「作品に狂う」という状態を初めて経験した、熱いうねりの只中で過ごした青春のような期間だった。

今日は3つ/4パターンのロミジュリについてざっくりまとめていきます。

(1) ロミオとジュリエット(3/20) @宝塚大劇場 星組B日程

 ロミジュリきっかけでミュージカルを好きになった私が、今の星組さんで、大好きなロミジュリと出会い直すことができたこと、本当に幸運だったと思う。この日に観たのがB日程じゃなかったら今こんなに前のめりにヅカファンをやっていないかもしれない。ありがとうVISAカード様。
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(2) Romeo and Juliet-ロミオとジュリエット-(3/30) @東京グローブ座

 道枝駿佑さんがロミオを、茅島みずきさんがジュリエットを演じた舞台。運よく制作解放席で観劇できて有難かった。脚本は、松岡和子さんの翻訳版『ロミオとジュリエット』ほぼそのまま。原作を読んでいた時にはわからなかった言葉遊びの面白さに気が付くことができ、戯曲は人が演じてこそ真価を発揮するのだなと強く感じたことが印象的です。下線のところが韻を踏んでおり、「一枚上手」「三枚目」のやり取りに場内で笑いが起こっていました。

  • ロミオ:がんばれ、がんばれ。さもないと、一本取ったと言うぞ。
  • マキュ:いや、駄洒落合戦はもう止めだ、お前のいいになるのが落ちだ。しかも、お前の頭の中は何もかも、あたかも酒盛り状態だ。どうだ、カモに関しては俺が一枚上手だろ?
  • ロミオ:カモだろうがカモメだろうが、二枚は上手だ。お前三枚目だからな。
  • マキュ:ふざけるな、耳噛むぞ。
  • ロミオ:噛むなって、このイカモノ食い。
  • マキュ:お前の洒落はきつい、薬味としては効きすぎだ。
  • ロミオ:カモ料理には合わないかも

(3) ロミオとジュリエット(4/16-5/2) @東京宝塚劇場 星組B日程

 初日、午後休を取って駆け付けました。前日から絶対に帰ると決めていたので、少し早く会社に行くのも全然苦じゃなかったな。初日を観劇したのが初めてだったので、最後に幕が下りかけてそのまま上に戻っていくことにびっくりしていました。礼さんのご挨拶に心が温かくなると同時に、「あれ、私ってば綺城ひか理さんしか見ていないわね…?」ということに気付いたりして。4/27~5/3まで予定されていた公演が中止となったものの、急きょ決定した5/2の無観客ライブ配信によって、B日程とちゃんとお別れができてよかったと思っています。
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(4) ロミオ&ジュリエット(5/29,6/5) @TBS赤坂ACTシアター

 2017年にも大阪で観劇していた本作だったのですが、ロミジュリオタクになった私が観たら「おや?」と思うところがあり、自分が面倒なファンになっていることを自覚しました。Twitterではあまり言わないようにしていたのですが、どうしても気になるところが三か所あったのでここでちょっと書き残しておきたい。(4)と(5)の順番を時系列と逆にしたのは肯定意見だけではないからです。お嫌な方は①-③を読み飛ばしてください。

①キャピュレット夫妻の曲/歌詞 追加

 おそらく、キャストの比重の差もあるのかもしれません。カーテンコールで演者さんが順番に出てくるところが、モンタギュー夫妻→乳母と神父→キャピュレット夫妻だったので。でもね、個人的にはもうちょっと余白が欲しかったなという気持ちです。

♪結婚のすすめ を乳母だけが歌った後、キャピュレット夫人による ♪涙の谷 で「あなたは私がお父様ではない人に恋をして産まれた子」と歌うのです。そこからのジュリエットの ♪結婚だけは ってどういう気持ちで聴いたらいいんでしょう?好きじゃない人と結婚したら不倫するかもしれないから結婚だけは好きな人としたいってこと?大分趣が変わりません? キャピュレット夫人の春野寿美礼様はすごく魅力的でした。ジュリエットへの想いを歌うティボルトをみて目を見開いてよろめいていたので、もしかしてティボルトのお父さんと恋をしたのかな?と想像しました。

そして夫人が「お父様との子ではない」と歌ったものだから、キャピュレット卿の ♪娘よ の「娘よ/お前の頑なな強さは私に似たのか/いつかは分かり合える日が来ると/信じている」はどうするのだろう、と思っていたら「お前が3つの頃気が付いた/お前は私の血を引く娘ではないと」「細い首に手をかけた/お前は無邪気にほほ笑んだ」「本当の娘のように/否それ以上に深く愛している」って歌っていました。物語として破綻はありません。でもあまりに余白がなくて…全部説明されてしまったではありませんか、と思いました。実際に裏設定としてキャピュレット夫人は別の人と関係をもってジュリエットが生まれたのかもしれないけれど、そこをはっきりさせないからこそキャピュレット卿の「私に似たのか」に少し影を感じたり、「いつかは」のその"いつか"はもう来ないんだ、という切なさを覚えるのではないだろうか。

②パリス伯爵の解釈違い…

 解釈違いとか言うのほんとめんどくさいファンですよね、って思うんですけど…「あんな傲慢な男にジュリエットを!?*1」とか「あのキンキラキンのゴジラと!?*2」とか言われるんですよパリス伯爵…いや、実際に本人は登場シーンからなんだかキザで胡散臭いし、ジュリエットへの花束はハートの箱に赤い薔薇を敷き詰めて中からギラギラのネックレス出すわ、お悔やみのところでは十字架の箱に白い薔薇を敷き詰めたものを左手に持ち、右手には見えるように指輪を持ってきているわで(せめて隠して!?それじゃ最初からジュリエットとの結婚を期待してお悔やみ言いに来た人みたいに見えるよ?)、完全に、「パリス伯爵とは結婚したくないからロミオと結婚したみたい」って思っちゃうじゃないか私なら結婚したくないよ(これは褒めていない)。パリスはいいやつなんだよ…と私の中のパリスに対する母性が暴れかけてしまいました。でも劇中の台詞通りの「傲慢」さ、「キンキラキンのゴジラ」感を纏っていた兼崎健太郎さんはすっごく上手だったということなのだとも思っています。

③僕は怖い Rep.が…ない!?!?

 決闘のシーンが終わり、ヴェローナ大公に追放を言い渡されたロミオが歌う ♪僕は怖いリプライズ が、なんと、ヴェローナ大公による ♪ヴェローナRep. と、ロミオによる ♪憎しみRep.→♪エメ Rep.になっています。なるほどそういう展開もあるのか、とも思うのだが、私がこれまで感じていた僕怖リプの意義がなくなってしまっているじゃないか、とも思ってしまったんですよね。

一幕でモンタギュー男女が集まって歌う ♪世界の王 と ♪マブの女王 から一転、ロミオが1人"死"と踊りながら歌う ♪僕は怖い によって、前の2曲との対比でロミオのぼんやりとした不安が色濃く映り、ベンマキュと一線を画しているような物憂げな雰囲気が浮かび上がると思っていて。「何かの終わりがはじまっている」と僕怖で歌うロミオが決闘でマーキューシオを喪い、ティボルトに復讐してしまった直後に僕怖Rep.で「世界が闇に閉ざされてしまった」と慟哭するから、響くんじゃないかと思うんです。マーキューシオを喪った彼が「友よ、どこに行ったんだ」と嘆く段階を経ずに ♪エメRep. でジュリエットへの愛だけを歌われてしまうとちょっと待ってくれと言いたくなってしまう…。

 ♪僕は怖いRep. が聴きたかったなと我儘を申し上げましたが、岡幸二郎さんasヴェローナ大公の ♪ヴェローナRep. は良かったです。「キャピュレット/モンタギュー/二つの一族が何代にも渡り争い続けてる」のところが「ティボルト/マーキューシオ/未来ある若者が無益な争いで命落としてしまった」と歌われていて、そっちで2人のことを歌うからロミオはジュリエットへの気持ちだけにフォーカスさせたのかもしれませんね。岡さんヴェローナ大公、長い裾のジャケットをお召しなのですが、その翻し方がとにかくツボでした。帝劇版の『1789』でペイロール伯爵を演じておられたときの冷徹さからは想像もつかない、厳めしくも葛藤する大公として舞台に重厚さを加えてくださっていました。

前田公輝さんのベンヴォーリオの話をさせてください。

 いやめっっちゃカッコよかったんですびっくりした想像していた何倍も歌が上手かったし一幕の無邪気で俺たちは世界の王だと信じている様子がすっごくピュアで、だからこそ二幕が苦しすぎてベンヴォーリオに泣かされた(ここまで一息)。元々ね、前田ベンを目当てに観に行ったところはあったんです。とあるドラマで前田さんカッコイイなと思っていたところにロミジュリに出ると聞いていたので、前田ベンの回を確保していて。冒頭からオペラでお顔を眺めてカッコいいな…と思っていた!ところに!「たとえ軍隊が/止めに入ったとしても」と歌う前田ベンの声が良すぎてマスクの下で口があいた。特にご本人の地声に近い歌声での歌唱から漂う仄かな甘さがすごくよかった。 ♪綺麗は汚い の時のにっこにっこな笑顔にこちらまでニコニコ。太陽みたいに笑う人ですね。二幕の ♪どうやって伝えよう 素敵だったな。色々言ったけれど前田さんのベンヴォーリオを観られただけで大満足でした。ありがとうございました。

(5) ロミオとジュリエット(5/9,12-23) @東京宝塚劇場 星組A日程

 星組ロミジュリのA日程も直接観に行くことができてすごく幸せだったなと思います。初観劇の親と友人を伴って観劇することもできました。

A日程もとっても楽しかった!!!パリス伯爵の出演する三場面は綺城ひか理さんにオペラロックオンでした。ロミオとジュリエットが出会うシーンそっちのけでパリスが身だしなみ整えるのを見ていたことを懺悔します。観る度かわいくなるパリス伯爵が最高に好きで。でも「噂によると/こちらのお宅/借金が~嵩んでいるとか~」とそこだけ大音量かつ巻き舌っぽいビブラートしっかりなところはちょっと良くないわよパリスくん。限られた出演時間の中で強い印象を残す綺城ひか理さんが大好きでした。フィナーレ男役群舞での綺城さんもものっすごく素敵で、特に"キメが華やか"なところが目を惹くのだなと思いました。大輪の花が後ろに見えます。これが花男なのでしょうか。まだまだ勉強中ですが、これからも綺城さんを好きでいられたらいいなぁ。なお、このエントリのタイトルは、綺城さんご出演のカフェブレで色紙に書いていらしたお言葉を拝借しました。この3ヶ月半、ロミジュリは私の生きる力でした。

それから、観劇する度に上手くなっているのではないかと思う舞空瞳さんのジュリエットと瀬央ゆりあさんのベンヴォーリオにも、舞台の醍醐味を強く感じさせてもらいました。愛月ひかるさんのティボルト、 ♪今日こそその日 を階段上って歌うところでちょうど私が座る下手の2階席側に目線が向いていたときがあり、狂気をはらんだ目に釘付けでした。宙組育ちであることをルーツとして大切にしながら、愛さんにしかできない男役を追究されているところがすごいなぁと思っています。

みんなの話をしたいのですが記憶も薄れ気味なので最後に1人。モンタギューの天飛華音くん。B日程で ♪マブの女王 終わりのあかベンぴーマキュ抱っこチャレンジがタイムラインで話題になっていたころ、マブでの華音くんの色気にあてられてそれを見逃して以来、華音くんに大注目中です。『エル・アルコン-鷹-』でのキャプテン・ブラックやスカステドリタイで覚えてはいたのですが、今回モンタギュー男女が出ていてパリス伯爵がいないシーンでは華音くんばかり観ていました。これからも舞台でいろんなお姿を拝見できるのがとっても楽しみです。

おわりに

 自分の話をします。私が宝塚歌劇団にハマったのは、大学時代の友人の存在があったからです。今回、別の友人の厚意があって、彼女を前楽に連れていくことができました。初めて友人に連れられた東京宝塚劇場で、6年振りに一緒に観劇できたことが本当に嬉しくて。ヅカファンとして思い入れの強い演目を、ヅカファンにしてくれた友人と観に行けたことは、私の中でファンとしての一つの区切りとなる出来事だったように思います。初めて1人で観劇した日、ご贔屓ができた日、舞台写真を買った日、お手紙を書いた日……ファンとしての道を少しずつ進みながらここまで来たのだなと感慨深い気持ちになりました。まだまだひよっ子ファンですけれど、これからも宝塚ファンとして元気に生きていきたいです。

 『ロミオとジュリエット』という作品について、私は今なお、メリーバッドエンド的な結末には疑問を覚えるところもある。死の世界で2人は結ばれた、それによってヴェローナに平和が訪れた、という結末には「そんな都合の良い…」と言いたくなってしまう青臭さを、まだ私は持っている。持っているけれど、ロミオとジュリエットの全身全霊の恋を否定もしたくない。渦巻く感情の全てもひっくるめてロミジュリの世界が大好きな私もまた、何百年も読み継がれる作品の不変の魅力に憑りつかれているのだと思う。

以上、2021年の『ロミオとジュリエット』総評でした!

*1:パリスが求婚ソングを歌ってハケた後のキャピュレット卿とティボルトのやり取り。cf.宝塚版「あんな間抜けな男にジュリエットを!?」

*2:♪バルコニー のあと「でも私パリス伯爵と結婚させられそうなの!」と言うジュリエットに対するロミオの台詞。cf.宝塚版「あの気取り屋の間抜けに!?」