ジャンルの反復横跳び

宝塚歌劇その他、心惹かれたものについて

謎を追いかけ、向き合ってーミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.5-最後の事件-感想

ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.5-最後の事件-の幕が降りましたね。おつかれさまでした、素晴らしい舞台をありがとうございました。

現地で観劇できたのはOp.4に続き2度目。メインジャンルをきっかけにシャーロック・ホームズにハマり、聖典を読んだり朗読劇に行ったりする中で偶然出会ったモリミュ。CS放送をたまたま見ることができた幸運な日がなければ今日こうして文字を書いてはいないのだなと思うと、巡りあわせに感謝をする思いです。

Op.4を現地で観劇した後、その空間にいて音楽を浴びられる喜びがいつまでも心の中で響いていた。ピアノとヴァイオリンの生演奏に重なる"歌唱"という極上の楽器。あんなに歌が上手い人たちが「上手い」の先の「すごい」を超えて、芝居と地続きの歌唱で心を揺さぶるー歌でなければ、歌だからこそ伝わる、というミュージカルの醍醐味を味わうことができる。モリミュってすごい!!!!!とドハマりした。もっと早く知れていれば、と思う気持ちもあるが間に合ってよかった、という気持ちが強い。

Op.5に行ってきた振り返りとして、印象的な歌詞を引きつつ出演者の方についても触れていけたらと思います。記憶だけを頼りに書いているので、後ほど追記するかもしれません。

 

この世界を(変えよう)

Op.5大阪公演2日目の夜公演の冒頭。静謐な空間に、鈴木さんウィリアムのアカペラが厳かに響く、さながら鎮魂歌のようだと感じた。

 

ここは大英帝国

お馴染みの曲!アンサンブルの皆様がすごいですよね。

 

ひとつ、ひとつ可能性を潰していけば どんな有り得なさそうなことでも それが真実なんだ

平野良さんという方に出会い、憂モリのシャーロックに出会うことができて、本当に幸せだなと感じたOp.5。♪真実 は聖典の台詞を引用したこの歌詞が印象的で、初めて聞いた時から耳に残って離れません。

ほんの少しだけ寂しかったのは、Op.5では謎が解かれるカタルシスが得られなかったこと。副題のとおり最後の事件を扱っているし至極当然ではあるのですけれど、Op.2の♪二人の探偵 にものすごく高揚して興奮した個人の我儘として。探偵としての彼の姿をまたもう一度観たいなぁという願望を書き残させて欲しい。エゴで申し訳ない。

 

あなたを待ってるわ いつまでも いつまでも

七木さんハドソンさん!!かわいい!

シャーロックを思うあたたかな歌声が、彼が座っていた椅子を照らす夕日の光のようで、呆れながらも彼を大切に思っていたことが分かる。郷愁を感じるメロディラインに重なる落ち着いた歌声が胸に響いて、しみじみと好きなシーンでした。

 

生きなければ

アルバートがロンドンの街に文字通り火を付ける、と宣言して歌う曲。ウィリアムが死によって安息を得ることを望むならそれが叶うようにと願い、自分自身はその罪を背負って「炎に焼かれよう」と歌う、それでいて「生きなければ」と歌うアンバランスさ、何より赤色の布を纏い舞うアンサンブルの皆様と舞台を照らす赤い照明が恐ろしくて、アルバートさんめちゃくちゃお顔が綺麗(でその頬に涙の跡が一筋伝っているように見えたときもあった)であそこは脳内処理が追い付かないんですがどうすればいいですかね。久保田秀敏さん、格好いいです。

この場面ではないですが、アルバートとマイクロフトの兄's大好きです。悠然と微笑む久保田さんアルバートと、隙がなく「政府そのもの」を体現している根本さんマイクロフトによるお茶会での「共に惑い続けよう」というあの台詞、立場を超えて「弟を持つ兄」として手を伸ばす根本さんマイクロフトがひたすらに素敵でした。ホームズ兄弟、推しです。

 

きざはしが

フレーズというか単語でごめんなさい。ロンドンを襲った火事に、貴族と市民がともに挑む様を目にしたフレッドが歌うところ。モリアーティ・プランが目指した平和のきざはしがここに、と高らかに歌うフレッドが好きです。

消火するために貴族も市民も関係なくバケツリレーをする様を照らす青い照明と、火事の赤い照明とはためく布の奥から舞う火の粉の対比も見事で。消火が成功すると舞台を覆うのが青い照明だけになって、すごい~と感嘆しきりでした。

また、この場面で「ノブレス・オブリージュ。持てる者の務めってやつだろ!」という台詞を市民が発するところが、いいなぁと思った。とても。

 

彼ならば

大湖せしるさんボンドのソロ。いや~よかった。

ボンドとしてウィルくんへの決意を歌い、直後にアイリーン・アドラーとしてウィリアム様とシャーロックへの願いを歌う。「タワーブリッジを目指すんだ!」とみんなを扇動している仕事人なところと、子どもを救おうと走る優しいところ、どっちも格好良かった。

せしさんのOp.2放送告知のインスタグラムストーリーを見られたからモリミュと出会えたので せしさんには感謝しきりで、そんな彼女が舞台に立っている姿を拝見できてとっても嬉しかったです。

 

生きよう

特にモリアーティ陣営5人-アルバート、ルイス、モラン、フレッド、ボンド-は当初、ウィリアムとともにモリアーティ・プランの最後に全員死ぬつもりでいた。「ファミリーの総意だ」と言っていたのはモランさんでしたよね。しかしウィリアムはそんなことをさせるつもりはなくて、みんなを生かそうとする。それを個々に消化し、ウィリアムの意思を受け取った5人がそれぞれに歌う「生きよう」。5人が立つ場所の少し先に落ちるスポットライト。そこにある「生」に一歩近付き、掬い上げるようにして歌う5人の様子が、2階席だとよく観えて素晴らしかった。照明効果本当に好き。

 

兄さんにとっての誰かが

ルイスのソロラストの転調パート、大阪ではフレーズに込められた感情が音程を上回るような切迫した印象を受けて好きでした。他方、東京で観たときには完全にモノにしてて、すごすぎた……。この曲は、ルイスの曲をめちゃくちゃ感じる曲でもある。兄さんに救ってもらった命だから自分から捨てようとするのは止める。僕は生きる。でも兄さんが救われることも諦められないからそれはホームズに託す…。

山本一慶さん、多分はじめましてでした。椅子に座るときにスーツのボタンを外す仕草、立ち上がるとすぐにボタンを付け直す仕草、都度優雅で素敵だったな。2代目Mとなることを決めた後の眼鏡を外した姿が格好良かった。

 

ここは大英帝国

犯罪卿と探偵がテムズ川に落ち、モリアーティ陣営とホームズ陣営の歌に重ね合わされるように歌われるメインテーマ。いつも冒頭で流れるときは不穏な空気で満ちていますが、今回は新しい大英帝国のはじまりを示すように少し明るい印象を持ちました。ここは大英帝国、私たちはこの国で生きていくーそんな希望を感じました。

 

この世界を(生きよう)

シーツがはためく舞台上。ポツンと置かれたベンチに腰掛けるウィリアム。客席から背を向けているので表情は見ることができない。そこに近付いていくシャーロック。ウィリアムの隣に座り「生きよう、リアム。」と歌う平野さんの歌声が、時に囁くようだったのが印象的で。ウィリアムにさえ聴こえればいい、というような声量で、やわらかく、掬い上げるように歌っているのを観て心が揺れないわけがなかった。お互いの表情を観られるのがお互いだけ(と見切れ席の方は見られたのでしょうか)だということが心憎い演出だなぁと思った。

冒頭で「この世界を」変えようと1人歌ったウィリアム。この場面では彼は1人ではなくて、彼を掴まえたシャーロックと共に「この世界を」生きようと歌う。お2人の声が合わさった時のハーモニーの素晴らしさ、特に、歌声を切るタイミングがピッタリ合った瞬間が大好きで、2人に降り注ぐあたたかな光がいつまでも途絶えないようにと願う。

 

以上! Op.6でもコンサートでも、何らかの形でまたモリミュを浴びられる機会がありますようにと願ってやみません。またいつか、この世界で。