ジャンルの反復横跳び

宝塚歌劇その他、心惹かれたものについて

風を纏う

MOTHERHOUSE (以下、「マザーハウス」と表記) というブランドが大好きだ。

www.mother-house.jp

『途上国から世界に通用するブランドをつくる』という代表 山口さんの想いから生まれたこのブランドは、バングラディシュでカバンを、ネパールでストール、スリランカでアクセサリーの他、地域ごとの特色ある素材を使い現地の方が手作りしている。

知ったきっかけは、サークルの先輩が「山口さんがやっているマザーハウスというブランドがおすすめだ」と言っていたことだったと思う。そしてちょうど同じ頃、大阪のルクアにある蔦屋書店でマザーハウスと出会った。大学生の頃だ。

一目で心を奪われたのが、アンティークスクエアバックパック。「憧れの革製品」そのもので興奮した。フォーマル感のある出で立ちでありながら、濃すぎない茶色が絶妙で、大人のランドセル、というようなイメージだろうか。ショルダーベルトは柔らかな曲線を描き、体に吸い付くように楽に背負わせてくれる。内側のチェックの布地も素敵で、PCや本を入れやすい背中側のポケットも嬉しい。カッコよくて可愛い、まさに理想のカバンだと思った。

1年後の2017年8月、マザーハウスが京都にオープンした。オープンの通知をもらい、イベントには行けなかったものの早々にお店を訪れた。寺町三条の交差点の一角に佇む木を基調とした二階建ての建物はものすごく素敵だった。京都店のメインのドアを開けてまず見える場所に鎮座しているのもやはり、アンティークスクエアバックパックだった。何度も何度も見て、何度見ても飽きることなく、好きだなぁいつか欲しいなぁ、と、焦がれ続けていた。

数年が経ち、私は京都から東京に居を移した。変わらずマザーハウスに通う中で、ずっとずっと憧れていたアンティークスクエアバックパックを贈りものにしようと考えた。初めてを特別な体験にしたいな、と思い、秋葉原の本店まで足を運んで。そもそも本当にこれを贈るか散々悩んだのち、買うことに決めた。決めるまでに相当に時間がかかった後に、アンティークスクエアバックパックばかり4つを並べていただき色の入り方の違いやシワの僅かな特質を見比べながら、ついに選び取った。渡すまでも本気で、これをあげてしまっていいのか?悩んだ。自分にとって一番欲しいものを人にあげるという行為をしたことがなく、加えて気軽にあげるにしてはあまりにも思い入れが強い商品だから。でもそうやってうじうじ悩んでいるのもカバンに失礼な気がして、とある人にアンティークスクエアバックパックを贈った。

2020年。正月休みに実家に帰った。そこでも、親友とマザーハウスを訪れた。親友は革の通学用カバンを探していたから、マザーハウスを薦めたところ気に入って、実物を見て決めたい、とのことで行ったのだ。同じころ私は、先述したアンティークスクエアバックパックを贈った相手との関係が終結したところで、つまり憧れのマザーハウスは、同時にどうしても、ハッピーではない感情を連れてくるものになってしまった。「返してもらえばよかったのに」そう言ってくれた人もいたし、なんならやはりあの時、自分のものにしておけばよかった、と何度思ったか知れない。……いや本当に、何度思ったことか。記憶はモノと強固に結びついていて、同時に、過去は常に今に影響を及ぼすと身に染みた。そのような経緯があり、私がマザーハウスを訪れたのは、思えばアンティークスクエアバックパックを買った日以来、ずいぶん久しぶりだった。私たちはあれやこれやと悩んだ末に親友は、一つのカバンを選んだ。

―馴染むのは別の色だけれど好きな色を持ちたい

そう言って。とても素敵な理由だと思った。ときに人は似合うものよりも、好きなものを身に付けることで自信に変えることができる。

先日。父と出掛けた先で誕生日に欲しいものはないのかと問われ、リュックが欲しくて調べていると答えた。父はそこにあるカバン屋さんをいくつか見ようと言い、奇しくも2軒目に彼が選んだのがマザーハウスだった。私はマザーハウスを買ってもらうのは……と尻込みする一方で、やっぱりマザーハウスのカバンは私にとって憧れで、いつか自分も、選んだ一つを大切に使い込みたいと願っていた。聞かれてもいないのにアンティークスクエアバックパックにまつわる曰くを少し聞いてもらいながら、悩んで悩んで、一つのリュックを選び取った。それは丸みを帯びたフォルムと高い収納力が共存しつつ、ショルダーベルトの曲線は柔らかで背負いやすい。重すぎないネイビーが、どんなシーンにも使いやすい商品だった。父と一緒に(追記:その後、母からも連絡が来て3人で出し合うことになった)、憧れ続けたマザーハウスで私が初めて買ったもの。

それが、KAZEMATOUである。

ビルの谷間から見上げた大空と、
吹きそよぐ風。
都会の空を切り取ったような
一枚の革で、
風をつつみ込むように
つくりあげたバッグ。
街の喧騒を進んでいく
あなたの背中に、
ふわりと風まとう、
軽やかさとしなやかさを。

帰宅してKAZEMATOUの特設サイトを開き、このコピーを見たとき、あぁこれを選んでよかったと思った。東京で働き始めて2年目の終わりに、日々のパートナーとしてこの商品を選んだことに心が踊った。マザーハウスにまつわる過去は、親友と父と母のおかげで明るいものに変わったように思う。

憧れではなく相棒としてKAZEMATOUを背負い、私は明日も、東京で生きていく。