ジャンルの反復横跳び

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「理想の綺城」さんを追いかけた―星組『ザ・ジェントル・ライアー~英国的、紳士と淑女のゲーム~』感想

 せーの あかりさんが好き~~~!!!

 

 『ザ・ジェントル・ライアー~英国的、紳士と淑女のゲーム~』、千秋楽おめでとうございました。全員で全日程、とはいかなかったけれど、それでもこの状況下で舞台の幕が上がり、夢の一時を過ごせたことは奇跡のようで、マチソワを終えた帰り道は「ずっと今日を繰り返していたいな~」という思いで一杯でした。全体の感想を書こうとしたけれど まとまらなかったので、まずは綺城ひか理さんのことだけ書きます。

ロバート・チルターン卿がギャップの宝庫過ぎる

 実は、『柳生忍法帖』『モアー・ダンディズム』マイ初日の帰り道、友人にこう連絡をしていました。「綺城さんに歌わせないなんて本気???って思った気持ちを吐き出させてほしい。」と。

『ザ・ジェントル・ライアー~英国的、紳士と淑女のゲーム~』においても、綺城さんの歌は多くありません。けれど私は今回、もっと歌って欲しいな、とあまり(オタクは強欲なので全く思わないと言ったら嘘になりますが)思いませんでした。それは、ロバートを通して綺城さんの色んな表情を見せてもらえて、両腕で抱えきれないくらいのときめきをもらえたからかなと感じています。

 1幕S1、綺城ひか理さん演じるロバート・チルターン卿の登場シーン。邸宅の階段を降りて0番にスッと立つ姿が美しく、「政界一高潔な理想の紳士」としての説得力がありました。綺城さんもSKY REPORTで「いかに最初に"理想の夫"として登場しておくかがキモとなっている」と仰っていた通り、邸での彼の振舞いは欠点など無い完璧な男性に見えます。

 1幕S3。邸での完璧な姿から一転して、アーサーに、過去の過ちのことでチーヴリー夫人に脅されていることを相談するシーンでの彼は項垂れていて。ロバートはアルンハイム男爵に政府機密を売った対価11万ポンドを元手に議会に乗り込み、「僕は今の地位と名声を手に入れた」と語ります。イギリスでは1883年に政治腐敗防止法が誕生するまで票の買収行為が横行していたようなので、ロバートが政治家になるためにはどうしてもお金が必要だったのでしょう*1。自分の過ちを洗いざらい話し、愛するガートルードの説得もアーサーに任せるロバートは、彼を心から信頼しているのだとわかって。

また、この時のロバートは、政治家としてよりも愛妻家としての面を強く感じます。ジプシー侑蘭粋ちゃんに「踊りましょうよ」と無理やり付き合わされながら、「パートナーがいるので結構です」感が前面に出ていて、かと言って完全拒否もできない紳士っぷりがかわいい。フィプスが踊るのを見れば拍手をして褒め称え、ステップを教えてくれるのを無下にできず挑戦してみる40歳かわいい。メイベルを心配して過保護になっちゃうところもかわいい。「メイベル止めなさい」「メイベル!」という声が日を追うごとにマイクに拾われていくの、ロミジュリAのパリスを思い出してニヤニヤしちゃった。

 1幕S5。書斎で書類に判を押したり、棚から抜き取った本を目次から確認するロバートの一挙手一投足が好きです。仕事モードにきゅん。トミーと会話をするロバートさんは良き上司で、妹を大事に思う良き兄であることもわかります。けれどガートルードに責められると眉を下げ、「―わかった。」と応じて邸を出ていく彼の声色が寂しげで私がチルターン邸のメイドだったら車に乗り込んでる(やめなさい)。

 2幕S2。アーサーの邸で誤ってチーヴリー夫人と引き合わされたロバートは、憤然とゴーリング邸を飛び出し議会に向かいます。「扉も少し開いてるじゃないかっ!!」と一気に慌てるロバートくんがかわいかったな、、あなた議員として働いているときは何事にも動じないタイプでしょうにそんなにすぐ慌てないの、、

この後はじまるアーサーの大一番が、ロバートの議会演説に繋がる場面転換が大好きでした。ロバートはそう思っていないだろうけれど、アーサーとロバートが一緒に闘っていることがわかる気がして。

議員の皆さん、そして、傍聴席にお座りの皆さん。

 2幕S3、下院議会の議場。客席を見渡し、力強く演説をするロバート。彼はこの時、友に裏切られ(たと勘違いし)、これまで築いてきた地位と名声、そして愛するパートナーを失うことを覚悟して、それでも自分のやるべきことは議会で真実を報告することだ、と腹を括っているのですよね。人生を賭けた局面で自分の正義を貫き通したロバートは、完璧な存在にはなれないとしても、そうあろうとする高潔な精神の持ち主であることは確かです。

演説後に他の議員の人と歌う曲で、周りのコーラスが止んで綺城さんの声だけが響くラストに毎回心が震えました。周りの声が不自然に消えるということではなく、綺城さんが声量を上げ、周りが下げてフェードアウトしていくというような手法なのかな。気が付いたら最後ソロ、というのがとても素敵だなぁと思って聴いていました。

千秋楽ではこの時の綺城さんの瞳が潤んでいた、というレポも拝見して、想像するだけで胸が苦しくなります。

 2幕S4。手紙を握りしめてチルターン邸に戻ってきた彼は「本当に僕のところへ帰ってきてくれるのかい?(首と一緒に体を傾げるの何それかわいい)」とガートルードに聞いて、ほのかぴガートルードがえらい棒読みで「ええ、もちろんよ、ロバート!」と応えると、眉を下げて嬉しそうに彼女を見つめて。「どうして二重に封筒に入れたりしたんだい?」「どうして、僕を愛していると書いてくれなかったの…?」―もう全部かわいい!さっきの堂々と演説した紳士はどこ行った!?

 かわいいのはさておき、ロバートが正義を貫いたことで、ガートルードとの関係が却って強固なものとなったラストが素敵でした。

もしもロバートがアーサーの計画通りに自身の正義を曲げて手紙を取り返すことを優先していたとしたら、ガートルードとの関係は一旦は上手く収まったとしてもどこかで壊れてしまったと思います。しかし、ロバートは、理想を追い求める彼の内面こそが尊く、一つの欠点によってその人間性が当然に否定されるものではないことを、議会演説で証明してみせました。だからこそ、ガートルードは過去はどうあれ今の彼は紛れもなく「理想の夫」だと確信を持った。

更に、人知れず人生を賭けていたアーサーにより懸案の手紙も取り戻すことができます。どこまでも優しく本心を隠すアーサーのお陰で、ロバートは幕が降りたその先の世界でいつか、英国を統べていくのでしょう。

 「主人公の実直な友人役」が続いていた綺城さんが、愛するパートナーと、自分以上に自分のことを思ってくれる友人がいるお役を演じてくださった今回。真面目ゆえに面白くなってしまう人物像でおかしみやかわいさを表しつつ、登場時やふとした時の振舞い、衣装の着こなしや、ここぞ という時はきっちり格好良くキメてくださって、大好きなお役でした。

 

綺城ひか理さんのフィナーレについて語彙力を絞り出す

 フィナーレが終わると本編の記憶が飛んでしまう、あるある。そしてフィナーレについては好きしか言えなくなるので 乏しい語彙力はもっと無くなる、これもあるある。でも騒ぎたいから書く!

フィナーレの綺城ひか理さんは、幕開きで斜めに板付きしている男役さんの後ろで伏し目のままポーズを取っておられて、スポットライトを浴びてから暫くセンターで踊ってくださいます。贔屓がスポットライトに照らされた瞬間に拍手ができる幸せを噛み締める。

エクブレのボレロの場面の黄色いお衣装を着て、お衣装に合わせた黄色のイヤーカフをして、本編での髭を取って美しい顔が全開で、唇には真っ赤な紅をさして。右側の前髪を掻き上げて、左側の髪はそこまで固めていないのか踊るのに合わせて一房ふわりと舞ったり。本編で抑えていた色気が惜しげもなく放出されていて 美の極致 だな…と思う。ねぇなんでそんなに美人さんなの??知ってたけど!!!って謎にキレそうになったりする。表情もね、『モアー・ダンディズム!』の一場面 ハードボイルドで見たような冷たい目と涼しい表情もあれば、ニヒルに微笑むときもあり、かと思うと素の楽しそうな表情も見られるしさりげないウィンクも飛んでくるし、キメが華やかで一秒たりとも見逃せない。

綺城さんセンターの踊りが終わると、ターコイズブルーのスーツを着た瀬央さんが登場され、男役全員での群舞となります。瀬央さんと綺城さんがセンターを分けてお二人で踊るところが本当に好き。アーサーとロバートという理想の友人同士のように、肘をぶつけあってハイタッチをして、肩を近付け笑い合うお二人の左耳にはイヤーカフが煌めいて。綺城さんの、瀬央さんを見る表情が楽しそうで嬉しそうで、そんな綺城さんを見せていただけたことがすごく、すごく幸せでした。多幸感で人は泣きそうになるのだなと、綺城さんに教えていただきました。

 『ザ・ジェントル・ライアー~英国的、紳士と淑女のゲーム~』、素敵な作品を本当にありがとうございました。これからも、舞台に立つ綺城ひか理さんの姿を沢山観に行けたらいいな。

 

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*1:オスカー・ワイルドが本作の原作戯曲『理想の夫』を発表したのは1895年なので、もしかしたら原作の世界でもお金のかからない選挙が実現していた可能性はあります。そのため、ロバートに同情の余地があると捉えるかどうかは意見が分かれそうです。